秘書時代、ボスについて東北地方に出張に行ったときのこと。 交渉相手の怖い人たちと、蕎麦屋に入った。 ボスと相手グループは奥の席、私と先輩秘書は手前の席。 「ここに来たら、蕎麦と掻き揚げを食うんだべ」 有無を言わさず注文され出てきたのは、大盛りの蕎麦と手の平ぐらいの大きさの掻き揚げ。 結構美味い!と思いながら食べていたら、 「おい若いの、これやるからよ」 4枚も巨大掻き揚げが向こうの席からまわって来た。 そして先輩秘書がぼそっと一言。 「お前、残せないの、わかってるよな」 残すと失礼に当たるぐらいはわかりつつ、 伊良部そっくりの巨体の先輩が3枚は食ってくれるだろうと思っていたら 「俺、ダイエット中だから、よろしく」 「・・・」 一枚でも満腹なのに、あと3枚も食えるわけない・・・。 でも残すわけにもいかない。 必死に食べていたら 「おい、行くぞ。・・・お前、何枚食ってんだ?食いしん坊だな」 ボスも薄情・・・。 でもNOと言えない辛さは、ボスも先輩秘書も若いときに経験済みなことは 耳にたこができるほど聞いている。 だから文句は言えない。 しかし、殴られるのを覚悟でNOと言わなければいけないときはある。 交渉も無事終わり、帰途につこうとしたとき ボスが怖いことを言った。 「おい佐島、あの親分が『いい若いの連れてるな。うちにくれよ』だってよ。残れ!」 「いえ、遠慮しておきます!」 間髪いれず答えたら、側にいた下っ端の怖い人がすかさず 「なんでー、もったいない。俺だったら、即決で残るな」 お前と一緒にするな。 ボスが黒といったら、白いものでも黒になる。 この世の中には、そんな世界がいくらでも存在する。 でも、そんな世界にいても、NO!と言える勇気は必要。 じゃないと人生が狂う。
Akio Sashima