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執筆者の写真Akio Sashima

第80回 何事にも綿密な準備を!


土曜の朝6時過ぎ、ロスにいる友達からの電話で起こされた。 なんだと思って眠い目をこすりながら聞いていると 「香港行きません?」 と唐突に言う。 ああ、あれか!と寝ぼけながらもピンときた。 奴の会社はハンドキャリーの会社をやっている。 企業からの依頼を受けて、手渡しで荷物などを運ぶ仕事だが、 その日、東京から荷物を持って香港に行けるスタッフがいないと、誰か他の人に頼まざるを得ない。 だから私のところにかかってきたのである。 「運ぶのは飛行機のパーツなんですけど、できれば9時45分発のでお願い」 無茶言うな・・・。 でも香港はまだ行ったことないし、週末の予定が特になかったので、軽く「いいよ」と言ってしまった。 そこからが大変だった・・・。 とりあえずパスポートとクレジットカードさえあればいいので、 20分後にはタクシーで東京駅へ。そして成田に着いたのが8時過ぎ。 荷物があるという近くの工場みたいなところまでタクシーで行くと、 そこにあったのは・・・・・。 40kgもの巨大な鉄の塊。しかもフタのない木箱に入ったままの状態・・・。 「パーツって、こんなでかいのかよ・・・。こんなの載せてもらえるのか?」 と思いつつ、嫌な顔をするタクシー運転手を急かして空港に引き返し、香港行きチケットを買おうとカウンターに 入ろうとすると、予想通り係の人に止められた。 「ダメですよ。フタがないと」 とりあえず宅急便屋さんでダンボールとガムテープを貸してもらい、フタをしたら何とか入口は通過。 でも今度はカウンターでダメ出し。 「これ、逆さまになったら出てきますよね?もっとしっかり梱包していただかないとお受けできません」 しょうがないから、到着ロビーにある別の宅急便屋さんまでクソ重い荷物を運び 丈夫そうなテープでぐるぐる巻きにしてもらう。 「あんまり変わんないと思いますけど・・・」 そんな心細い店員の声を背に、急いでまたカウンターまで戻る。 「うーん・・・、これが限度ですか?まあ、いいでしょう。でも責任はもてないので、免責書類にサインしてください」 疲れ果てていたので、さっさとサインして時計を見ると10時20分。 結局、荷物の準備で2時間以上もかかったことになる。 「よく9時45分発のでお願いとか言うよ」 と愚痴りながらゲートへ走り、11時発のに間に合った。 香港の空港では出口でプラカード持ったスタッフが待っていると言っていたので 「一件落着。一泊しかできないけど香港で何をしよう」 とワクワクしながら到着して、出口へ・・・。 いない・・・。 プラカード持ったスタッフなんて、どこにも見当たらない・・・。 ひとしきり、構内をぐるぐる回ってみるものの、それらしき人もいない。 アナウンスしてもらおうとデスクに行っても「できません」とにべもなく断られる。 急いでたから、連絡先なんて聞いてもいない。 どうしたものかと、受け渡し書類を見ていると、誰かの携帯番号が手書きで書かれているのを発見。 「助かった!これだ!」 と思って公衆電話から電話すると、 「えっ、東京から?そんな話、聞いてないよ。今、空港?・・・5分後にかけ直してくれ」 目の前が真っ暗になりつつ、5分後にかけ直すと 「わかった。俺じゃなかった。1Fのマクドナルドの前でスタッフが待ってるよ。」 到着から1時間半後、やっと無事に荷物受け渡し完了。 でも、待っていたのは力の抜ける一言。 「これさあ、もう必要なくなったんだよね。うまく修理できたみたいだから、ハハ」 40kgもの荷物を成田と香港の空港で引き摺りながら四苦八苦した苦労は報われなかったのか・・・。 でも、とりあえずただで香港に来れたし、観光でもしようと街に向かうと 土砂降りの雨・・・。 ヤケになって屋台で店主の薦めるがままに注文すると 「こんなに食えるわけないじゃん」 というぐらい、出てきてしまった。 ついていないときは何をしてもついていない。 ちなみにこの仕事の報酬は数万円。 お金まで貰えて海外旅行できるんだから、おいしい仕事と言えなくもない。 しかも今回はちょうど予定を入れていなかった週末に重なっていたから 軽く引き受けてしまった。 もし始めから荷物がちゃんと梱包されていて、しかも香港空港で簡単にスタッフに会えていたら・・・。 やっぱり、仕事にしろ旅行にしろ、綿密な準備は必要だ。

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