柔道・石井の総合格闘技への転向が話題になっている。 彼の言動に眉をひそめる人も多いのかもしれないが、 自らの意思で選んだ好きな道に進むことを止める権利は誰にもない。 そもそも彼の凄いところは、日本の伝統的柔道にこだわらず、 “JUDO”を学び、それを実践したところにある。 「変化に対応できるものこそが一番強い」 そんな強い信念を持ち、世界に広がりつつある“JUDO”を学びにヨーロッパへと遠征し、 そのエッセンスをどん欲に吸収したことが、北京での金メダルにつながっていった。 もちろん「負けない柔道」への批判はわかる。 日本伝統の柔道、そして「一本」で勝つことの大切さもわかる。 でも、それに固執して負けた人の言葉に耳を傾ける人はいない。 「絶対に負けられない」 そんなプレッシャーのなかで闘ってきたからこそ、いま、 「柔道」最強を世界に知らしめるために、“JUDO"さえも飛び越え、 あらゆる格闘技経験者が参戦する総合格闘技の世界でトップを目指すというのは筋が通っている。 それを達成することで、柔道界への恩返しができる。 それはロンドンで連続金メダルを取ることとはまったく別物である。 「柔道」の強さを総合格闘技の世界でも証明する。 そこには「縦軸」が存在する。 オリンピック陸上400メートル・リレーで銅メダルに輝いた選手が、 その「縦軸」をあらわす素晴らしいコメントをしていた。 「ここまで先輩達が培ってきた歴史をつないできて、今日やっと結果にできた。 これまで戦ってきた日本短距離界の先輩達が一生懸命戦ってきた結果です。 僕達は作ってもらったものの上に立って、走っただけ。夢中だったし、面白かった。 オリンピックはメダルも大事だが、どんな状況でもあきらめないということを改めて学んだ」 いま石井に求められるのは、この縦軸の意識である。 柔道の歴史の延長線上に、自分の総合格闘技への挑戦があることを忘れないで欲しい。 いま日本が直面する問題の多くは、この縦軸意識の希薄さに起因している。 横軸だけで考えて、刹那的に「今さえよければいい」と思うから、とんでもない事件も起こすし、 ニートやフリーターが増えてしまう。 先人が築き上げてきたものを将来につなげていく。 そんな縦軸意識さえあれば、自虐史観に惑わされることなく、 反省すべきことは反省しつつも、日本に誇りを持って生きていける。 石井の活躍を、そんな日本の将来をもだぶらせながら期待したい。