top of page

モサドに学ぶ人材採用

モサドといえば、CIAをも凌ぐと言われる世界最強の諜報機関だ。その強さの土台は、当然のことながら“優秀な人材”である。諜報の世界では人的資源こそがもっとも貴重な財産である。モサドを擁するイスラエルの人口は、わずか800万人程度。世界の国々を企業にたとえると、イスラエルはいわば中小企業に過ぎない。にもかかわらず優秀な人材がモサドに集まるには、いくつか理由がある。


周囲を敵国に囲まれて常に緊張状態にあること、2000年もの流浪の末にようやく建国に至ったことから芽生える強烈な愛国心と使命感、そして世界中に散らばるユダヤ人を擁護する使命から生まれる強固な情報ネットワークなどが挙げられる。

これらと同じものを普通の企業が持つことはほぼ不可能であるが、激しい競争の中で果敢にチャレンジし、社員であることを誇りに思える商品・サービスを世に提供し、いかなる困難にぶつかっても社員を守るという姿勢を経営陣が強く持ち、そして至るところに自社のファンを作っていくことが、優秀な人材採用につながっていくことに異論はあるまい。

そんな中で、人材採用担当者が胸に刻んでおくべきモサドの立役者たちの言葉を示しておくことにする。


<モサドとは>
イスラエルの諜報機関。対外諜報活動と特務工作を担当する。イスラエル初代首相のベングリオンが、独立前に存在した反英独立闘争組織(ハガナ)の情報班とユダヤ難民の非合法移送組織(ユダヤ機関)の情報部を統合して、1949年に創設した。以来、アイヒマン誘拐やエンテベ空港人質救出、ミグ戦闘機奪取、オシラク原子炉爆破など、数々の秘密オペレーションを成功させてきたことで知られ、CIAも凌ぐ世界最強の諜報機関として知られる。首相府管下にあるが、活動の根拠となる法律は存在せず、法的には存在しない組織ともいえる。モットーは、"Where there is no guidance, a nation falls, but in an abundance of counselors there is safety."

>>モサド公式サイト

 

 

<“ミスター・モサド” イサー・ハレル 元・長官>

- 100人の平均的エージェントよりも一人のずば抜けたエージェントの方がはるかにメリットがある。そのような人材は待っていても決して現れないからこちらから捜し出すしかない。

- 自分から志願してくるような連中はまず相手にしてはならない。

- まずエージェントとして通用するようなのはいない。冒険心にかられたり、金が目当てだったり、派手な生活にあこがれているのが大部分というのが現実だ。そういうのは百害あって一利もない。だからとらない。こちらからアプローチするのが一番なのだ。

- モサドにはスカウトを専門とするスポッターと呼ばれるメンバーが何人もいる。人を見る能力にかけては彼らは折り紙つきだ。大学、軍隊、工場などあらゆる層の人間を彼らは注意深く見ている、そしてこれと思った人間を徹底的にチェックする。ときには2~3年も費やすこともある。最終的なチェックが完了して絶対的にモサドの基準に合格となった時点で初めてその人間にアプローチする。もちろん相手は断るかもしれない。それは仕方がない。強制はできないからね。

- 基準にはいろいろあるが、まず人間としての尊厳と正直さを持っていること。仕事さえできればどんな性格の人間でも良いではないかと思うかも知れぬがそれは大きな間違いだ。彼らのもたらす情報や彼らの為す工作にイスラエル国家の浮沈がかかっているのだ。

- また大事な要素は愛国心に駆られていること。これがなければエージェントとなる資格はない。ほかに重要な要素としては粗末な生活様式に徹しきれること。またもし既婚者なら家族を大切にしていること。

- もちろんこれらの要素を全部備えている者でも、決定的な要素といえる“能力”が欠けていればだめだ。

- モサド・エージェントを決して見殺しにしてはならないというのが私の信条の一つだった。その考えは今でもモサド内部で生き続けている。敵の手に落ちたエージェントはどのような代償を払っても取り返さなければならない。だから時には死体となったモサド・エージェントと生きている捕虜を交換することもある。エージェント達はどのような状態にあっても決して見捨てられないと確信している。たとえ殺されてもイスラエルの地に埋められると知っているのだ。どんな危険な任務をも彼らがものともしない理由はここにある。

- モサドは最も優秀な人間しか採らない。ほかの職業についていたなら100%成功するような連中ばかりだ。その彼らが愛国の精神を持ってモサドに加わり、国家のために尽くしてくれるのだ。それに報いるためにも彼らを大事に扱うのは当然のことだ。


<“ハレルの後継者” メイアー・アミット 元・長官>

- 普通エージェントを作り上げるには外国の言葉、文化、考え方などすべてを初めから叩き込まねばならない。しかし、ここイスラエルには文字通り世界中からのユダヤ人が移民としてやって来た。だからエージェントの最低条件である外国文化や言葉に精通している者は山ほどいる。これに加え、世界のあらゆる国々にユダヤ人が住み、独特の社会を構成しているというのも大きな強みだ。

- モサド・エージェントとして必要な要素はいろいろあるが、まず自分のやっていることに信念を持てる人間だろう。これがない人間は羅針盤のない船に等しい。モサド・エージェントの仕事はきれいごとばかりではない。それどころか時には非道極まりない仕事もやらねばならないときがある。心の中ではものすごい抵抗を感じるものだ。そんな時支えになるのが自分のやっていることに対する信念だ。それも単なる口先だけではなく、どのような拷問やプレッシャーにも耐えられるほど強固な信念でなくてはならない。

- 同じように重要な要素として考えられるのは人一倍頭が切れることだろうね。どのような固い信念や愛国心を持っていても頭が悪い人間は使い物にならない。チェスでたとえれば少なくとも十手先まで読めるぐらいの頭脳がなければエージェントになる資格はない。頭が良いということは機転が利くということにつながる。機転が利けばそんな状態に追い込まれても瞬間的に判断を下しベストな方法で対処することができる。

- どんな環境にもとけこめる順応性も大事な要素だね。これはやさしいようだがなかなか難しい。ある国の人間になり切らねばならないのだから、言葉や歴史はもとより、宗教、文化、情報など全てを完全に自分のものにしておく必要がある。

- 順応能力と同じように大切なのは勘の良さだろう。俗に言う第六感というやつだ。どんな情報でもいっぺんに全部を手に入れるということはまずあり得ない。こま切れの情報を丹念に集めてつなぎ合わせて初めて意味のある情報になるのだ。

- もちろんいくら勘がよいといっても、それだけでパズルを埋めるのに十分でないときもある。そんなとき重要になってくるのが経験だ、同じ事柄は決して繰り返さないとよく言われる。確かにそうだ。しかし、多くの場合、物事には似たような要素が含まれているものだ。その部分がいかに小さくとも良い。優秀なエージェントはそのわずかな部分から何らかの結論を引き出すことができる。


<“モサドの星” ウルフガング・ロッツ>

- 我々にとっての知性とは人間性を形成する上でなくてはならない要素の一つなのだ。そしてこの人間性を重要視したからこそモサドは優秀な人材をひきつけることができた。他の国の諜報機関は往々にしてエージェントを機械の部品と考え常にエクスペンダブル(消耗品)と見なしている。モサドは一人のエージェントもエクスペンダブルと扱ったことは一度もない。モサドにとっては人間こそ唯一の武器なのであり、どのような作戦も人的要素を最も大切と考えてきた。だからモサドの成功は人間の知性と高潔な価値観の勝利以外なにものでもなかったのだ。

 

「モサド その真実」(落合信彦・著 集英社)より

 

⇒やはり最も心に響くのは、「モサド・エージェントを決して見殺しにしてはならない」、「モサドは一人のエージェントもエクスペンダブルと扱ったことは一度もない」という姿勢だろう。優秀な人材を集め、会社を強くしていくためには、経営者によるこれと同じ姿勢は必須だ。


 

<メイアー・アミット元・長官>

- 金銭を第一の目的とする人間が、モサド加入を認められることはない。過度に熱心なシオニストも、この仕事には向かない。そういう方向違いの情熱は、職務のなんたるかを明確に把握する妨げとなる。必要とされるのは、冷静で、明晰で、先を見越した判断と、バランスの取れた視線。人がモサドに入りたいと思う理由はさまざまだろう。いわゆる神秘性、冒険を望む者もいる。加入すれば自分の地位が向上すると信じてやまない、大物指向の小物もいる。なかには、モサドに属することで、秘密のパワーが自分に与えられると思い込んでやってくる者もいる。いずれも、加入にふさわしい動機とはなりえない。

- そしてつねに、つねに、現地の部下には、自分が全面的な支援を受けているという確信を与えてやらなければならない。家族の面倒をみてやり、子どもたちが元気に暮らせるよう努めねばならない。同時に、本人を守ってやることも必要だ。もし、残された妻が、夫の浮気を疑いだしたら、そんなことはないと安心させる。たとえ浮気していても、妻には知らせない。妻のほうが道を踏みはずしたときは、まっとうな方向に戻してやる。夫には知らせない。気を散らせたくないからだ。よきスパイ組織のリーダーは、部下を家族として扱う。昼も夜も、どんなときも、自分の存在が部下の支えとなるように。その結果、忠誠心が生まれ、カッツア(モサドの工作員)は長官の望みのまま動く。そして、最後には、長官が何を望むかが重要になってくる。

「憂国のスパイ」(ゴードン・トーマス著 光文社)より

 

 

「胆力を試す試験」
元・外交官の佐藤優氏によると、モサドには胆力を試す試験があるという。

「この情報大国では、イテリジェンス担当官のほとんどが縁故採用である。まず、履歴を徹底的に調査する。配偶者の履歴も徹底的に洗う。そして試験が始まる。最初数百人いた候補者が10名程度に絞り込まれ、最後に胆力の試験がある。例えばこんな“指令”が出される。
『○月×日、午前2時、身分証明書や運免許証など、人定(人物確認)ができる書類を一切持たずに首相官邸の前に来い。親、家族、友人など、われわれの組織関係者以外と連絡を取ることは一切禁止する。万一、解決不能のトラブルに巻き込まれた場合、××庁に連絡し、認識番号△△△△が助けを求めています、と言え』
それと同時に、インテリジェンス機関関係者が、匿名で警察に「挙動不審者が深夜、首相官邸付近に現れるという情報がある。テロリストかもしれない」という通報の電話をする。警察は本当にテロリストが来るかもしれないと思い、警戒する。そこにやってきた採用候補者は職務質問をされるが、身分証明書がないので説明できない。ここで身の証を示すために家族と連絡をとったものは不合格になる。警察署に連行され、留置される場合もある。それdめお機転を働かせて、うまく逃げた者だけが採用されるのだ」

「国家の謀略」(佐藤優・著 小学館)より


⇒佐藤氏は「日本のインテリジェンス機関を創設する場合にも、このようなユニークな試験が取り入れられるべきと思う」と言われている。民間の採用でこんなことをやると警察から大目玉を食らうことになるだろうけど、これを応用した試験を考えてみるのもアリだと思う。

モサド関連書籍

モサド、その真実―世界最強のイスラエル諜報機関 (集英社文庫)
スパイのためのハンドブック (ハヤカワ文庫 NF 79)

スパイのためのハンドブック (ハヤカワ文庫 NF 79) – 1982/3/30
ウォルフガング・ロッツ (著), 朝河 伸英 (翻訳)

Mossad: The Greatest Missions of the Israeli Secret Service

Mossad: The Greatest Missions of the Israeli Secret Service [Kindle版]
Michael Bar-Zohar (著), Nissim Mishal (著)

シークレット・ウォーズ

シークレット・ウォーズ  – 2012/10/4
ロネン バーグマン (著), 佐藤 優  (監修), 河合 洋一郎 (翻訳)

モサド・ファイル イスラエル最強スパイ列伝

モサド・ファイル イスラエル最強スパイ列伝 [Kindle版]
マイケル バー ゾウハー (著), ニシム ミシャル (著), 上野 元美 (著)

イスラエル情報戦史

イスラエル情報戦史  – 2015/6/8
アモス ギルボア准将 (著, 編集), エフライム ラピッド准将 (著, 編集), 佐藤 優 (監修), 河合 洋一郎 (翻訳)

Gideon's Spies: The Secret History of the Mossad

Gideon's Spies: The Secret History of the Mossad [Kindle版]
Gordon Thomas (著)

勝負どころを突破する!―モサドに学ぶビジネスの掟

勝負どころを突破する!―モサドに学ぶビジネスの掟  – 1999/2
ジェラルド ウェスタビー (著), Gerald Westerby (原著), 仁平 和夫 (翻訳)

モサド - 暗躍と抗争の六十年史 (新潮選書)

モサド―暗躍と抗争の六十年史 (新潮選書)  – 2009/6
小谷 賢  (著)

憂国のスパイ―イスラエル諜報機関モサド

憂国のスパイ―イスラエル諜報機関モサド  – 1999/6
ゴードン トーマス (著), Gordon Thomas (原著), 東江 一紀 (翻訳)

モサド前長官の証言「暗闇に身をおいて」

モサド前長官の証言「暗闇に身をおいて」  – 2007/11/22
エフライム・ハレヴィ  (著), 河野 純治 (翻訳)

モサド

「この法案(特定秘密保護法案)を踏まえて、イスラエルの、私は非常に評価していますけど、小さくとも極めて優秀なモサドのような国家組織をつくるべきじゃないかと思います」(石原慎太郎)

Live Casino House
ライブカジノハウス
bottom of page